一般家庭に電気をお届けできる、
小売りライセンスを取得した企業数は225社(2016年3月14日時点)。
でも、電力会社を自由に選べるというけれど、
そもそも「誰から買えるのかわからない」。
そんな悩める人たちへ、新電力たちを紹介しよう。
彼らはボクらの電気料金をどう進化させてくれるのだろうか。
須賀川瓦斯
東北でエネルギーの地産地消を―。その思いを胸に、電力小売りに参入するのが、地元LPガス会社の須賀川瓦斯だ。
同社は福島県内でLPガスの販売やガソリンスタンド経営などをする一方、エネルギー事業も展開している。震災後は太陽光発電に力を入れ、これまでに福島県下に75か所、出力合計約13MWの自社発電所を稼働させている。
エネルギーの地産地消をテーマに掲げる須賀川瓦斯は、15年4月、福島など東北を中心に高圧向けに電力の販売を開始した。当初は9か所、796kWの契約電力で「世界一小さな電力会社だった」と橋本直子副社長は振り返る。開始から9か月、経験と実績を積み、ノウハウを蓄えながら、昨年末時点で約100件、10MWの契約電力まで拡大した。
100%自社で作った電気を使うのはさすがに難しいが、「少なくとも、全体の50%以上は自社の太陽光を使いたい」と橋本氏は語る。地元で作った電気は地元で使う、あくまで地産地消を目指すゆえ、一般家庭の供給エリアは福島県を中心に、東北電力管内のみとなる。
一般顧客には、できるだけ低価格で電気を提供したいと橋本氏。「ガスやガソリンと同じで、電気もどこで買っても品質に差はない。そういった意味では、価格が重要になる。自社電源を最大限活用しながら、電源調達をできるだけ低コストで行いたい」。
すでにガスの管理センターを福島県内に構えており、なにかあった時には24時間365日駆け付け可能な体制を整えている。電気に関しても、同様のサービスを提供する。
家電やガス器具の販売、さらに酒屋やフィットネスクラブまで経営する須賀川瓦斯。ガスや灯油などのセット販売から、家電やガス器具などの取付けまで、電力と組み合わせたサービス提供を視野に入れる。
洸陽電機
再生可能エネルギーの電源開発と省エネルギーサービス、そして電力供給、この3つの事業を展開するのが兵庫県に本社を置く洸陽電機だ。
山本吉大会長は、「僕らは安価でクリーンな電力を賢く使っていく社会を目指したい」と語る。もともと洸陽電機は、「ESCOサービスを提供するお客様に電力も供給したい」(山本氏)というビジョンを描いてきた。
だが、当時は東日本大震災前で「PPS(新電力)は冬の時代」。ならばと自社で発電所を開発し、エネルギーの創出を目指す。「最初は地熱の研究から始めたが」、12年7月に再生可能エネルギーの固定価格買取り制度(FIT)がスタートすると、「我々は電気工事屋の出身です。一定の見地があった太陽光発電所の開発・運営をしつつ、EPC(設計・調達・建設)も展開」した。今では、自社発電所が54か所、100MWまで、EPCでは132か所、約65MWを目指す形が見えてきた。
「やはり電力会社という名前がつく以上、全くのファブレスで発電所がないというのもおかしな話でしょう」と山本会長。地熱や小水力、バイオマス、天然ガス火力の建設も目下、計画中だ。
自前主義にこだわる山本氏。新電力(PPS)事業者としての登録は12年に済ませたが、「電気屋さんであり、省エネ屋さんですから、需要予測や発電予測にも見地がある。電力の需給管理なども含めて、自前でやっていくことにこだわった」。
2年半ほどの準備期間を経て、15年2月に高圧向けの電力供給をスタートさせると、対象顧客はオフィスビルや庁舎、学校、工場などあらゆる業種に広がっている。
そして16年4月に迎える一般家庭向けの電力小売り。関西・関東・九州の3エリアを中心に、複数の供給エリアでの販売を検討するが、「販売開始時期含め、いろいろ検討中なんですが、一つのキーワードは低炭素です」と山本氏。
関西では有名なLPガス会社、伊丹産業とも提携しており、販売チャネルの構築を急ぐ。
日本アルファ電力
電力小売りとは、電気を調達して売るという非常にシンプルなビジネスだけに、いかに一般家庭にリーチできるかがものをいう世界。そんな小売りに寄り添い、黒子役に徹する企業もいる。
日本アルファ電力。一般家庭には馴染みのない企業かもしれないが、実は電力業界ではちょっとした有名どころだ。「我々は電力事業、電力サービスをしたいという企業に、プラットフォームを提供する電力商社です」と若濱真之介代表は語る。
とはいえ、電力事業をつくっても当然、玉がなければ売ることはできない。「価格競争力のあるいい電気を卸すのも、我々の役割」だという。そんな日本アルファだが、もともと電力商社として参入したわけではなかった。高圧向けPPSとして自ら電力供給を手掛けるうちに、「いくつもの障壁」を痛感する。
「電力事業をやりたい企業はたくさんいる。でも彼らには知見がない。リソースがない」。そこで若濱氏は、「彼らに代わって電力事業をつくる。電気を卸せば、彼らは電気を売るだけで済むはず」。現実とのギャップを解決しようと黒子の世界に飛び込む。
役割分担を明確にしたことで、提携先は拡大。「15年度の受注見込みは200億円」まで急成長する。
一般家庭含めた低圧部門でも、黒子役に徹するが、「自社販売もしていく」。対象エリアは沖縄以外の全国。「我々に契約を変更してもらうためには、価格帯がとても重要」と若濱氏。東電管内の従量料金に対して、「4〜9%超安くできれば」というイメージを描く。
電源調達には300万kWの目処が立った。提携先には「LPガスやハウスメーカー、不動産にIT系など」、多くの企業が集まっており、「提携先を通じて、50〜150万件の一般家庭の獲得を目指す」。
しかし、若濱氏、「電気代を安くするだけだったら意味がない」とも語る。「我々、新電力に期待されるものは、新しい価値を創造して、その付加価値に対してお金を使ってもらうこと」だという。目指すゴールは「エネルギーとインフォメーションの融合であるエネフォメーションカンパニー」だ。
たとえば、今、電気を買ったら高い、安いというように時間や、あるいは地域と価格を連動させ、価格にダイナミズムを持たせる。情報技術を用いて効率的なエネルギーの使い方ができる。そんなマーケットの創出を目指す。
JXエネルギー
ENEOSでおなじみ、JXエネルギーが16年4月より一般家庭向けに電力の販売を開始する。Tポイント・ジャパンやエポスカード、また家電量販店のノジマなどとの提携も進み、準備は着々だ。
JXは15年7月、「ENEOSでんき」スペシャルサイトを開設。JXの電力事業のいろはから、電力自由化についての解説、専門家による家計節約術やキャンペーン情報などを掲載。「ENEOSでんき」の料金メニューや電気料金シミュレーションなども満載だ。
4月以降、「ENEOSでんき」を購入すれば、どれだけお得になるのだろうか。JXの治田健一電気販売2グループマネージャーは「毎月の電気使用量が180kWh以上の家庭であれば、今の東電料金より安くなる」と語る。「東電管内2000万世帯のうち、1400~1500万世帯にメリットが出る料金プラン」だと胸を張る。
また、Tカードと提携しているので月々の電気代でTポイントが貯まる。他にも全日本空輸(ANA)やトヨタファイナンス、エポスカードとの提携も発表しており、料金の支払いを各社クレジットカードで決済すれば、ポイントやマイルがたまる、使えるといった特典がつく。
JXはまず、東電管内の一般家庭に向けて電気の供給を開始する。提供する電源は、自社所有する発電所の電気を使用する予定だ。関東では川崎で天然ガスとバイオマス発電所を、また新潟にも火力発電所を所有しており、「ミドル電源とベースロード電源を自前で持っていることによって、安心で安全な電気の供給につながる」と治田氏は語る。
ENEOS電気を購入したい場合、JXの専用サイトや、約2000か所のGS(ガソリンスタンド)、さらに家電量販店のノジマや、マルイの店舗で申し込みができる。16年1月より事前受付を開始済みで、総合エネルギー企業として、「安心と信頼のENEOS電気」を家庭に届ける予定だ。